大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和43年(ラ)408号 決定

抗告人 清水電気株式会社 外一名

主文

原決定を取り消す。

本件競落はこれを許さない。

理由

抗告人らは抗告の理由は追つて書面で申述する旨抗告状に記載しながら、右書面を未だ提出していない。しかしながら、職権をもつて案ずるに、記録によると、抗告人清水三平は、債権者を相手方として、本件抵当権の被担保債権の弁済につき東京簡易裁判所に調停の申立をし、本件競売手続の停止を申し立てたところ、昭和四三年六月二八日同裁判所において右調停事件(同裁判所昭和四三年(ノ)第二九三号)の終了に至るまで競売手続を停止する旨の決定がなされ、抗告人らは同日右停止決定正本を原裁判所に提出(本件記録が当裁判所に送付された後であるため、右正本も当裁判所に回付された。)したことが認められる。本件競落許可決定の言渡があつたのは、同年六月一一日であつて、右停止決定の正本が原裁判所に提出されたのは右許可決定の言渡があつた後であることが明らかであるが、抗告裁判所は抗告の裁判をするまでに生じた事情を斟酌すべきであるから、右停止決定正本の提出により、本件競売手続の続行は許されなくなつたので、民訴法第六八二条第三項、第六七四条第二項、第六七二条第一号により本件競落許可決定は取り消すべきである。

なお、このような場合に、最高価競買人が適法に取得した地位を害してはならないとして、競落不許の宣言まではすべきではないとする見解もあるが、既に競買保証金を提供している最高価競買人たるの地位を、将来における競落許否不明のままの状態で相当期間にわたり凍結しておくことは(国税徴収法第一一四条は滞納処分の続行の停止期間中には最高価申込者または買受人からの入札等または買受の取消権を認めているが明文のない民事訴訟法ないし競売法において最高価競買人に同様の取消権を認めることはできない。)、必ずしも右競買人の利益を保護するゆえんではないから、当裁判所は上記の見解に左袒することはできない。

よつて、主文のとおり決定した。

(裁判長裁判官 高井常太郎 裁判官 高津環 裁判官 弓削孟)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例